小藤田漢方薬局

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アトピーについて西洋医学の一般的治療

【疑問】

漢方薬でアトピー性皮膚炎が治るまたは改善すると思いますか?
アトピーは皮膚の病気ですから、皮膚に直接軟膏を塗って治すのが本筋ではと、ご意見・疑問が寄せられそうです。
現代医学(西洋医学)ではそれが本筋です。当然なのです。 皮膚科クリニックにお子さん・お孫さんを連れて行くと、「アトピーです」との診断後、看護師さんがステロイド軟膏をアトピーの患部に塗り残しがないように多めに塗ってくれると思います。 帰りには、ステロイド軟膏と服用する抗ヒスタミン剤を渡してくれるでしょう?
これが一般的常識です。 その後の経過はどうでしょうか。

【ある物語】

アトピー治療の現状 ---(物語風にしています)---
登場人物:小学5年男の子(A君)、A君のお母さん

A君はクラブ活動(サッカー)を熱心に行っている。3ヶ月前から上半身に痒みが出てきた。ここ2週間は皮膚の状態がひどくなってきたので、サッカーはお休みにして皮膚科を受診。アトピー性皮膚炎との診断。

A君の発症部位:顔(額・ほお・目の周り)、胸上部、肩甲骨周囲
A君の皮膚の状態:カサカサし痒い、痒みが酷い時は、なかなか寝付けないが一旦眠ると朝まで眠っている。寝ている間に無意識に掻いている。朝目覚めると布団には皮膚の落屑がそこかしこにある。皮膚も傷になり血が滲んでいる。

皮膚科受診後A君とお母さんは処方箋を持って調剤薬局に行きました。 キンダーベート軟膏・リドメックス軟膏(両方共ステロイド軟膏)・保湿剤のプロペトと服用するアレロック錠(抗ヒスタミン剤)を2週間分渡されました。

薬局では薬剤師から「一日2回軟膏を塗ってください。キンダーベートは、作用は弱いが顔にはこれで十分です。その他の身体にはリドメックスを塗ってください」と説明を受けました。ドクターからも同じような説明を受けていました。先ほど皮膚科では看護師さんが軟膏を塗ってくれましたので、夕刻にもう一度塗ることにしました。

早速、風呂あがりにキンダーベートを顔に塗り、胸や肩甲骨の周囲にはリドメックスを塗りました。1日2回塗るようにと言われたので翌日からは朝と風呂あがりに塗るようにしました。夕食後にアレロック錠5mgを1錠飲みました。寝付きも比較的良くなりました。 4日が経ちました。皮膚の痒みは少なくなりました。新しい傷は少なくなりました。

皮膚科受診から2週間が過ぎ、再度皮膚科に行き同じ薬を手にしました。 皮膚も綺麗になり、サッカー少年に戻りました。結局28日間軟膏を塗り時々アレロックを服用しました。お母さんはアトピーは治ったと考え、治療は中止しました。 それから、1周間はほとんど痒みもなく無事経過しましたが、その後急に痒みが増し皮膚の状態も引っ掻き傷が多くなりジュクジュクした箇所が出てきました。
再度皮膚科を受診しました。

今回は前回にはなかったプロトピック軟膏が加わりました。医師はお母さんに伝えました。「ジュクジュクした所はステロイド軟膏を使用し、そうでないところはプロトピックを使ってください。ジュクジュクした所の皮膚が回復し汁が出なくなったらそこもプロトピックを使用してください。プロトピックは使い始めは痛みを感じるかもしれませんがしばらく使うと痛みは無くなると思います」

今回は皮膚科でのステロイド軟膏・プロトピック軟膏を用いた現代医学でのアトピー治療をもう少し掘り下げてみましょう。

【副腎皮質ホルモン(ステロイド)】

まず、副腎皮質ホルモン(ステロイド)とは何でしょうか。 ステロイドは副腎から分泌されるホルモンです。副腎は一対ある腎臓の上に乗っかっている小さな臓器で、重さ5g程度、大きさは数cm、外側の皮質と内側の髄質に分かれており、それぞれ分泌するホルモンが違っており、皮質部分から分泌されるのが副腎皮質ホルモン(ステロイド)です。

ステロイドと言われるのは、化学構造式にステロイド骨格を持っているのでそう呼ばれます。他にもステロイド骨格を持っているものには、男性ホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンなどがあり総称としてステロイドホルモンと言われますが、皮膚関係でステロイドといえば副腎皮質ホルモンを指します。

もう少し副腎皮質ホルモンについて言えば、副腎皮質は3層に分かれ、外側から球状層・束状層・網状層と呼ばれます。球状層からは鉱質コルチコイドが、束状層からは糖質コルチコイドが、網状層からは作用の弱めの男性ホルモン(女性も)が分泌されます。糖質コルチコイドにはヒドロコルチゾン、コルチコステロン、コルチゾンがあります。ヒドロコルチゾンが主体です。これらは天然のステロイドです。

【糖質コルチコイド】

このうち糖質コルチコイドが抗炎症、免疫抑制作用があり薬として利用されます。ただ他の作用も有しています。 他の作用として血糖上昇作用、組織のタンパク質を分解しアミノ酸に変える作用(蛋白異化促進作用)、脂肪分解促進作用、胃酸分泌促進作用、ナトリウム貯留・カリウム排泄促進作用(鉱質コルチコイド作用)があります。 他の作用としてあげたものは副作用として発現するものです。

このほかに作用というより体全体のバランスを調整するホメオスタシス(生体恒常性)の機構として次のことを理解する必要があります。 糖質コルチコイドの血中濃度が低下すると悩下垂体がこの低下をキャッチし副腎にホルモンを分泌させる作用のあるACTHの放出量を多くし、血中の糖質コルチコイドを上昇させ、糖質コルチコイドの血中濃度を一定量に保つようにします。 逆に糖質コルチコイドの血中濃度が上昇すると悩下垂体が上昇をキャッチしACTHの放出量を少なくし、血中の糖質コルチコイドを減少させ、糖質コルチコイドの血中濃度を一定量に保つようにします。

これはホメオスタシスの一例です。 現代医学において、この認識が弱いことがステロイドによるアトピー治療やステロイドの離脱を行うことについて、うまくいかない原因になっていると考えています。

【ステロイドの種類】

ステロイドの種類には多くのものがあります。 天然型のものはヒドロコルチゾンです。商品名コートリル(錠剤・服用剤)。副作用も当然持っていますが、天然のものですので安心感はあります。薬としては薬効の強さ5段階の分類の内一番弱い「weak」に属します。

外用剤の天然型はテラ・コートリルがあります。コートリルは上に述べたヒドロコルチゾン、テラはオキシテトラサイクリンのことです。これは抗生物質で商品名テラマイシンです。ステロイドに抗生物質を混合しているのはステロイドの免疫力低下による細菌感染を防ぐものです。その他にオイラックスHがあります。これはヒドロコルチゾンと鎮痒作用のあるクロタミトンとを配合したものです。これら以外には天然型を用いた一般的なステロイド剤は日本にはないようです。

 

合成型のステロイド剤は天然型ヒドロコルチゾンを基礎にし、メチル基や水酸基・フッ素などで水素を置換して合成したものです。抗炎症作用が天然型に比べて4から5倍、更には40倍へと増強されます。合成ステロイドにプレドニゾロンがありますが、これはヒドロコルチゾン(分子量362.46)のA環の1-2位を二重結合に変えただけのものです。それでも抗炎症作用は4倍になります。4倍になりますが、強さ5段階の分類の内一番「弱い」「weak」に属します。

A君が使用したキンダーベート軟膏・リドメックス軟膏の強さは、キンダーベートが強さ「中程度」medium、リドメックが「強力」strongに分類されます。さらにその上の強い段階のステロイドは、「かなり強力」very strong、「最強」strongestに分類されるものもあります。 A君が顔以外の体にはリドメックスを塗り、顔はそれより弱めのキンダーベートを塗るように指示されたのは皮膚の吸収率の違いを考慮していますのでうなずけます。

【プロトピック】

次にプロトピック(分子量822.03)とはどのようなものでしょう。 一般名はタクロリムス水和物、放線菌の産生物から得られたマクロライド構造を持つ物質です。作用はインターロイキンⅡを分泌するヘルパーT細胞の働きを抑制します。このインターロイキンⅡはキラーT細胞を増加させる作用やB細胞に抗体を産生させる作用があります。キラーT細胞の過剰な増加やB細胞からの抗体の過剰な産生はアレルギー反応やアトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患をもたらします。

【プロトピック・ステロイドの特徴

プロトピックは分子量が大きいため正常な皮膚からは吸収されにくい。アトピーなどの湿疹があると皮膚表面は荒れてきます。すると表皮は間隙が大きくなりプロトピックは内部へ浸透しやすくなります。もっと表皮が乱れたり表皮がない皮膚では吸収が多くなり副作用の点から使用はできません。例えばジュクジュクした潰瘍面、ひどい傷口、粘膜や外陰部を含んだ湿疹に対しては副作用を考慮して使用できません。

プロトピックに対してステロイド外用薬は分子量が小さく、健康な皮膚でも吸収されます。そのため長期に使用していると副作用を起こしやすくなり、急に止めるとかえって皮膚炎が悪化すること(リバウンド)があります。プロトピックではそのような心配がありませんが、塗り始めに灼熱感やほてり感、ヒリヒリ感、かゆみなどの刺激感が生じることがあります。
免疫抑制剤であるため、細菌性感染症(毛嚢炎、伝染性膿痂疹等)、ウイルス性感染症(単純疱疹、カポジ水痘様発疹症等)、真菌性感染症(白癬等)が生じることがあります。

【ステロイドとプロトピックの使い分け】

普通皮膚科での使い分けは、皮膚の状態を見て判断します。 皮膚がジュクジュクである場合は、まずステロイド軟膏を使いジュクジュクした皮膚を乾燥状態までもって行きます。 その後プロトピック軟膏に切り替えます。

なぜ2段階にしているのでしょうか。 それはステロイドは長期に使うと副作用が出てくるがプロトピックはもともと副作用が少なく、かつ正常な皮膚からは吸収されにくいため仮に漫然と長期に使用しても副作用が起こりにくいという理由なのでしょうか。あるいはプロトピック軟膏をジュクジュクの状態に使うと吸収が良すぎて副作用が生じるということでしょうか。

これはプロトピック軟膏の添付文書を見るとプロトピック軟膏自体慎重に扱うべきことが記載されています。特に添付文書の「警告」の欄に「潰瘍・糜爛(びらん)がある場合吸収が高まり血中濃度が高まり腎障害などの副作用が出る可能性がある。このため潰瘍・糜爛を改善させた後に使用を開始すること」とあります。

また次の記載があります。「ステロイド外用剤等の既存療法では効果が不十分又は副作用によりこれらの投与ができないなど、本剤による治療がより適切と考える場合に使用する。」 これはステロイドを使いジュクジュクでない乾燥した皮膚を形成させた後、プロトピック軟膏を使うという2段階の治療の方法に対して少し矛盾したことになります。
プロトピック軟膏は潰瘍・糜爛の皮膚の状態を表現したジュクジュクした皮膚に使うと腎障害などの副作用が出てくるので、効果は不十分ながらステロイド軟膏を使用して潰瘍・糜爛でない乾燥した状態を作りプロトピック軟膏を使用してくださいという添付文書の趣旨を勘案する結果2段階の治療を行うようになっていると考えられます。

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